第三次アーミテージ報告(全訳資料):『米日同盟―アジア安定の鎮台』(2012.8)③

天然ガス

 近年における天然ガス開発の活発化は数年前は殆どの人が不可能と思っていたエネルギーの二国間貿易に再び火をつけるかもしれない。全米の48州で新たに大量のシュール・ガス(shale gas)埋蔵資源が発見されたことで、米国は世界で最も急速に成長する天然ガスの製造国になった。国際エネルギー機構(IEA)によれば、2014年に予定されたパナマ運河の拡張計画によって、航行船舶の80%がパナマ運河を利用している液化天然ガス(LNG)の輸送コストは劇的に低廉化し、米国湾岸で産出されたLNGの輸出もまたアジアの中で劇的に競争力を高めるのである。

 米国におけるシュール・ガス革命とアラスカにおける潤沢なガス埋蔵資源の存在は日米両国に互恵的な機会を提供するであろう。すなわち、米国は2015年までに全米の48州からLNGの輸出を開始する、そして日本は引き続きLNGの最大輸入国であり続けるということだ。1969年以来、日本はアラスカから比較的少量のLNGを輸入してきた。しかし3.11以来LNGの輸入元を増やして分散する必要から、上述した二国間の貿易を拡大することへの関心が高まっている。

 しかしながら、米国とFTA、とりわけFTAの中でもガスに関する取扱い条項を結んでいない国にLNGを輸出しようとする米国の会社は米国エネルギー省(DOE)の化石燃料局からまず許認可を取り付けねばならない。16各国のFTA締結国はDOEの輸出許認可を得ている(もっとも、その他の規制や許可要件は適用される)が、そのうちの大半は主要なLNGの輸入国ではない。

 日本のようなFTA非加盟国に対しては、米国の「公益」に反するとDOEが結論しない限り輸出は許可される。アラスカのキナイ(Kenai)LNGターミナルではアラスカから日本への輸出には機械的に許可が下りている。しかし全米48州からのLNG輸出の可能性が浮上してきたことで、DOEによる許認可プロセス政治的な監視下に置かれるだろう。すでにFTA非参加国を対象とするDOEの許可が下りたサビーン・パス(Sabine Pass)LNG計画に加え、DOEの許認可が下りるのを待っている48州のLNG計画は8つ存在している。

 活動家はLNGの輸出を環境的ないしは経済的な見地から反対している。またLNGの輸出が米国国内での天然ガス価格を高騰させ天然ガスに依存する国内産業の競争力を弱めるのではないかという懸念もある。最近ブルックリン研究所が出した政策要綱はこうした主張に反論し、将来的に考えられる輸出量は米国による天然ガス供給量と比較して相対的に少量なので、国内価格に与える影響は最低限である、また国内の産業または家計による広汎なガスの消費には差し障りがないだろうと結論付けている。LNG輸出を制限することは不必要に米国のシュール・ガスおよびLNG輸出計画に対する投資を阻害することになるだろう。

 米国はナショナリズムという手段に頼って民間によるLNG輸出を妨げるべきではない。米国の政策決定者は輸出への開放性を担保する一方で、環境保全に責任を負いながら資源の掘削を整備すべきである。さらに、日本が危機に直面しているときには、米国はそれまでに交渉で合意された商業契約に準拠し、相場価格での一定で安定した供給を確約すべく、LNGの供給を妨げないことを日本に保証すべきである(大統領が宣言した国内の緊急時を除く)。防衛協力の一環として、米国は軍事同盟と同時に天然資源同盟も担うべきである。この分野での協力はいまだ十分に確立されていない。

 さらに、米国は日本へのLNGの輸出を妨げている現行の法制を改正すべきである。理想的には、議会が自動的に許認可が下りるために必要なFTAの要件を除去し、LNGをあらゆる国に輸出し我々が平和的な国際関係を享受することは国益と合致するという推定を成り立たせるべきだ。またその代替案としては、議会はLNGの輸出に関して日本をFTA参加国と見なし、日本を他の輸入国と対等の地平に立たせるべきだ。最低でも、ホワイトハウスは、日本と協力した輸出計画には現行法下で許認可が下されるように全面的な支援と優先順位を与えるべきだ。

 適切な政策的援助によって、天然ガスの二国間貿易は再活性化し、また日本から米国への直接投資は増加しうる。北米におけるガス供給量が際立っている一方で、米国にはターミナルや港湾、それらと連動しタンカーの航行を統御するために必要な海洋輸送システムが十分に整備されていないという懸念が存在する。大規模なインフラ投資がなければ米国のガス産出は成長しない。こうした事実は、米国がFTAに参加する他のガス輸出相手国と同等の地位を日本に付与する有効な根拠になる。

 

 

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