我観:対米自立こそ急務(『崎門学報』第三号)

TPPのねらい
目下進行中のTPP交渉が大詰めを迎えているとのことであるが、小生は頭が悪い上に世間の部外者なので、このTPPが何なのか未だによく分からない。TPPは自由貿易協定であるから、その主たる内容が財市場の自由化にあることは間違いない。アメリカとしては、農産物をはじめとする生産物の輸出を増やして貿易赤字を減らすと共に、雇用を創出して失業者を減らすのが狙いであろう。しかしある識者が言っていたアメリカのもう一つの狙いは、我が国の金融市場の自由化であるという。これは財市場における関税障壁に対して、保険や共済などのサービス業における非関税障壁の撤廃が目的とされているそうだ。たしかに、我が国は郵政や農協、国民皆保険制度によって金融市場が統制され、外国企業による自由な参入が規制されているのは聞いたことがある。よってアメリカとしては、一千兆円と言われる我が国民の金融資産にアメリカの保険会社がアクセスできるように、TPPによって規制緩和を促したいと言う思惑があるのだろう。
高圧政策の背景
TPPは、1970年代以降におけるアメリカの近隣窮乏化政策、そして1980年代以降における国際的な金融市場の自由化政策の延長と見ることもできるのではないか。戦後のアメリカは自由主義陣営の盟主として、国内市場を開放し、富裕な最終消費市場になったが、次第に復興と高度成長を遂げた日独に国内製造業を侵食され、貿易赤字は拡大する一方であった。また戦後の福祉国家政策に加えて、ベトナム戦争の長期化は、財政赤字の拡大を招き、かくしてアメリカは深刻な「双子の赤字」に苦しむことになったのである。アメリカ経済の矛盾は、ニクソンショックとして表面化し、ニクソンは中共と組んでソ連を牽制することによって、衰退期の外交を乗り切ろうとした。日米繊維交渉で思い出される様な日米貿易摩擦が発生し出したのはちょうどその頃である。当時アメリカの対日姿勢が硬化したのは、米中宥和の中で日米関係の重要性が低下した事情と無縁ではなかった。
さらに80年代に入りアメリカでネオコンが主流を占めると、彼らは製造業における優位を放棄して、ソ連に対する軍事的優勢を背景に、「同盟国」に対する露骨な構造改革とそれによる金融市場の自由化を要求し始めたのである。こうした要求は冷戦終結によりアメリカがユニラテラリズムに傾斜してして行くにつれてエスカレートした。89年に日米構造協議が始まり、冷戦終結後の94年には悪名高い「年次改革要望書」が手交され始めたのはそのためであり、目下進行中のTPPは、こうした一連の対日政策の延長線上に位置するのである。
アメリカにすり寄る日本
この四半世紀に亘りアメリカが我が国に対して高圧姿勢に転じたのは、他でもなく我が国の軍事的重要性が薄れたからである。本来であれば、そのタイミングで自民党政権は自主憲法を制定して日米安保を見直し、真の独立を回復すべきであった。しかし彼らは逆に「おもいやり」と称して、在日米軍の駐留費用の一部を負担し、アメリカに擦りよってその庇護を懇願したのである。安倍政権は、アメリカへの協調ならぬ従属が、我が国の安全を保障し、経済を立て直す唯一の方策であると考えているようであるが、残念ながらそうした目論見は、近年におけるチャイナの軍事成長と覇権主義的な海洋進出に対して殆ど無効であることを思い知るだろう。というのも、現在のアメリカにとってチャイナは日本に勝るとも劣らない経済的相手国であり、米国債の保有比率は今年の2月に久しぶりに日本が首位に返り咲いものの、それまでの6年半はチャイナが首位であった。貿易面でもアメリカにとってチャイナは第一の輸入先であり、輸出先として地位は日本よりも高い。こうした状況下で、アメリカが日本のためにチャイナとの経済利益を犠牲するとは考えにくい。むしろ日本には二枚舌を使って対日防衛を約束し、その一方でチャイナへは宥和政策を進めてその海洋進出に対する有効な対策を怠る公算が高い。2013年の末にチャイナが一方的に防空識別圏を設定し、航空会社に飛行計画の提出を求めたのに対して、オバマ政権はこれを無視してB-29を防空圏内で恣意飛行させた一方で、国内の航空会社には飛行計画の提出を命令した如きダブルスタンダードは、彼の国伝統の二枚舌外交の一例である。かくしてアメリカはチャイナを野放し、かつての孤立化政策に回帰しつつある。
「リバランス」1-自主防衛
ジョージ・ケナンやヘンリー・キッシンジャーといった戦略家も同じことを言っていたが、アメリカは建国以来のリベラルな原則を外交に持ち込むために、現実への合理的な視点を失い、かえって問題をややこしくする傾向があるようだ。第二次大戦前も支那への門戸開放主義に固執するあまりに我が国を過剰に追い詰め、結果的にはコミンテルンに漁夫の利を与えた。中東でも、イランとイラクを競わせる代わりに、サダム・フセインを破滅させた結果、イランに漁夫の利を与えたばかりか、イスラム国の台頭を許した。これらは全て理念先行によるアメリカ外交の失敗であり、彼らは同じ過ちを極東でも繰り返す可能性がある。これはアメリカが理念国家であるが故の宿弊なのである。安倍首相は先日のアメリカ議会における演説の中で、アメリカのアジアにおける「リバランランス」を歓迎し、「日米同盟」を「希望の同盟」と讃えた。しかしアメリカがTPPを主導し、我が国が集団的自衛権を行使しても、畢竟そんな小手先の対策はチャイナに対する有効な抑止にはならずむしろ我が国における従来の対米従属に拍車をかけるだけである。大国間の勢力均衡が、核の相互確証破壊(MAD)によって辛うじて成立する戦後の国際環境において、アジアのリバランスとは、我が国が核戦力を構築し、自主的な抑止力を保持することに他ならず、さもなければ「日米同盟」は、米中の狭間に我が国を埋没せしめる「絶望の同盟」になるだろう。しかしながら、1953年のアイゼンハワー大統領による「平和のための原子力」演説以来、アメリカは原子力の平和利用を促進し、我が国に原発技術を提供する代わりに原子力の軍事転用を禁止し、NPT条約によってそれを明文化した。つまり我が国はエネルギー供給源を原発に依存する限り、NPT体制に従わざるをえず、核戦力の構築は不可能なのである。
「リバランス」2-日ロ同盟
チャイナに対するもう一つのリバランスは、日露関係の正常化である。我が国はロシアとの間に北方領土問題を抱えており、戦後70年を経過せんとする現在においても講和条約は締結されておらず、そのため両国間の経済協力も限定的である。しかし我が国が原発エネルギーへの依存から脱却を目指す上で、ロシアが保有する石油や天然ガスに対する需要は高まっている。またロシアも、折からのエネルギー価格の下落や欧州市場の縮小によって収入が減り国家財政が悪化しているのみならず、シベリアやサハリンなどの極東開発を進める上で、我が国からの投資やハイテク技術の導入を必要としている。中ロ関係も表向き良好であるが、ロシアは内心で長大な国境を接する中国を警戒している。この様に両国の利益は一致しているのである。そんな中、2013年4月の日ロ首脳会談によって両国関係は好転の兆しを見せ、昨秋にはプーチンの訪日も予定されていたが、ロシアのクリミア編入に対するアメリカの経済制裁に我が国が追従したことで、プーチンの訪日は延期され、日ロ平和条約交渉は中断してしまった。ところで懸案の北方領土問題に関しては、1951年、当時の鳩山一郎首相が訪ソし、日本が国後島と択捉島を含む千島列島を放棄し、色丹島と歯舞群島の返還によってソ連と平和条約を締結しようとしたのに対して、アメリカが横やりを入れ、ダレス国務長官が重光葵外相に対して、「日本が二島返還で決着させるなら、沖縄は永久に返還しない」と恫喝した経緯(「ダレスの恫喝」)がある。以後、我が国の外務省は、アメリカの意向を忖度して、一貫して、四島一括返還を主張し、その結果、今日に至るも、日ロ平和条約は締結されていない。もっとも、未だ中国が揺籃期にあった半世紀以上前と今ではアジアの戦略環境は大きく変わっており、日ロ関係の強化はアジアのリバランスを標榜するアメリカの戦略的な利益とも合致するであろう。よって我が国政府は、こうした時局の推移を見極めて従来の思考停止による対米従属から抜け出し、独自の国家意思を発揮すべきだ。先般、一水会の木村代表が鳩山元首相を引き連れてクリミアを訪問したのは、対米従属に堕した政府を激励し、上述の如き政策転換を促す義挙であると信じている。
『崎門学報』第三号より転載)
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