新東亜論―米国の普遍主義を排す(2009)9

9.国家間のバランスオブパワーこそ東洋平和の現実的根拠です。

次に、ポスト・アメリカのネガティブな側面は、これまでアメリカの覇権で抑制されていた大国の野心が解き放たれ、その結果、潜在的な覇権国同士の権力政治が加熱化することです。なかでも、中露専制国家とアメリカが角逐する東亜の政局は、日を追って緊迫の度を増し、忍び寄る戦争の恐怖が洞察力に長けた人士の間で危機感を募らせています。また世界的な景気後退と相即した、開かれた市場経済の分断化は、資本と国家の一体化を促進して重商主義的な経済ナショナリズムを激成するでしょう。こうした状況を踏まえ、私たちは東亜全局の国際平和を維持するために、大国相互の有効な抑止力に基づいたバランスオブパワーを確立せねばなりません。いうまでもなく世界平和は人類共通の悲願です。しかしそれは決して独り善がりな正義感や一方的軍縮によって実現されるものではありません。なぜなら敵は、そうした私たちの寛大な善意や妥協を、却って巧みに付け入るべき弱さの現われとしか看做さないからです。したがって、平和に対する実質的な責任を有するものは、道徳的確信に偏することなく、冷静な地政学的合理性に基づいた国際秩序の建設に努めねばなりません。

 先般、アメリカではハト派リベラルのオバマ政権が発足し、逼迫する東亜情勢は新たな展開を迎えつつあります。アメリカは外交政策の機軸を「封じ込め」から経済的な相互依存を通じた「関与」に転換しようとしていますが、これは紛れもなく彼らが「歴史の終わり」に対する空虚な楽観を根拠に、東亜のバランスオブパワーに対する実質的責任を放棄したことの現われではないかと思います。実際のところ、中東政策の挫折で疲弊し、内政問題にかかかりきりの彼らには、世界政治にコミットする意思も能力もないのです。そして果せるかな、こうした状況をいいことに、中国は着々ミャンマーやパキスタンなどに海軍基地を設営して外洋進出の布石を打っています。かくして鎌首をもたげる大中華ナショナリズムを今後も私たちが放置し続けるのであれば、後世の歴史家は、二度の世界大戦で学ぶところ少なく、三度目の過ちを防ぐことの出来なかった愚かな祖先の罪業を激しく非難することになるでしょう。よって、アメリカ以後の世界で、21一世紀の東洋平和を断固死守するためには、我が国日本が東亜のバランスオブパワーに対する実質的な責任を引き受けねばなりません。

 

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