トランプ勝利の要因と日本の進路

アメリカ大統領選でトランプが当選した。トランプは選挙期間中、在日米軍の撤退を示唆し、我が国の核武装を容認する発言をして物議をかもした。トランプが発言通りの行動をとるならば、嫌が応にも我が国は国家としての自立を迫られるだろう。

今回のトランプ勝利の要因としては、様々な分析があるが、一つはオバマ政権が進めて来たリベラルな政策に対する保守派の巻き返しがある。オバマ政権はアメリカの伝統的なアングロ・プロテスタントの文化を否定し、黒人やヒスパニック、同性愛者、麻薬中毒者などのマイノリティーの権利を擁護拡大してきた。しかしこうした政策は、「多文化主義」の名を借りた「文化相対主義」、「政治的公正(ポリティカル・コレクトネス)」の名を借りた「悪平等主義」を帰結し、結果としてアメリカ社会の文化的断絶を招いた。その際、ヒラリーはリベラルの頭目と見なされた。第二に、グローバル金融資本と結託したエスタブリッシュメントとして、格差社会を容認してきたヒラリーに対して、トランプは国内の製造業を保護し、産業労働者の権利を代弁したことから、中間層や貧困層の広汎な支持を得た。第三に、安全保障に関して、オバマ政権が掲げ、ヒラリー国務長官によって推進された核軍縮や協調外交は、かえって中露の増長を招き、国際情勢を不安定化させると共に、アメリカの国際的な地位を低下させたことへの反省から、「アメリカを偉大にする」といったトランプのスローガンがアピールした。クリントンは国務長官時代の「メール問題」に加え、中国政府との「黒い関係」が指摘されている。

以上のような要因に照らせば、今後トランプ政権が進める内政外交は、第一にアングロ・プロテスタントを中心とするアメリカの伝統的な価値観に回帰し、産業保護主義に基づいて国際的な金融市場の自由化に歯止めをかけ、TPPやNAFTAなどの自由貿易体制の枠組みからの離脱を模索し、さらに外交面ではアメリカの国力に即したかたちで孤立主義に傾斜し、同盟国の軍事的自立を促す形で「オフショア・バランシング」による力の均衡を求めるであろう。しかしこうした政策の転換は、戦後アメリカが我が国にリベラルな政治体制と軍事的制約を課す代わりに、アメリカの豊沃な国内市場を開放して自由主義経済の果実を享受せしめてきた基本的構図を根本的に塗り替えるものだ。

さても今年は、イギリスのEU離脱決定に始まり、ドゥテルテ新フィリピン大統領の誕生、それに続くトランプの当選と、変動目まぐるしい一年となった。これらの動きに共通しているのは、従来のグローバリズムに対抗するナショナリズムのうねりがポピュリズムの形で噴出し、各国に伝統主義への回帰と経済的な平等主義の潮流を生み出しているということである。特に冷戦終結以降に世界化した一連の新自由主義改革は、国家をグローバルな枠組みに従属させ、人々からナショナルなアイデンティティーを剥奪すると共に、国際金融資本と結託した一部の支配層による国家資源の収奪、国民財産の搾取を推し進めてきた。こうしたなかで、グローバル・金融・エリート対、ナショナル・産業(工業や農業)・大衆という構図が成立し、後者が前者に選挙で競り勝つという現象が世界各地で起こっているのである。

我が国も、冷戦以後にエスカレートしたアメリカの対日圧力に屈して、国内市場を自由化し、特に小泉構造改革によって広汎な金融・労働市場の自由化が推し進められた。その結果、竹中平蔵(現パソナ会長)を始め、欧米金融資本と結託した一部のレント・シーカーは、規制改革による莫大な利権を手にする一方で、伝統文化を支える地方社会は衰退し、失業や貧富の格差が拡大している。安倍首相は、当初こそ保守再生の看板を掲げたが、実際には対米追従外交と構造改革路線を踏襲し、戦後レジームを延引させたに過ぎなかったが、そうしたなかでのトランプ当選は、我が国が真にアメリカから独立し、国家の自立を回復する千載一遇の好機となるであろう。それは取りも直さず、我が国が在日米軍を撤退させてアメリカ依存の国防体制から脱却し、自主国防体制を構築すると共に、グローバル金融資本から国内産業と国民資産を防衛するということに他ならない。

しかしながらこの目的を達する上で二つの障害がある。一つは、我が国の政党勢力で対米自立の核となる真正保守が存在しないことである。一時は、平沼赳夫氏の率いた「たちあがれ日本」や「太陽の党」が期待されたが、新保守勢力の混入によって換骨奪胎され、雲散霧消した。もう一つの障害は、上述した様な情勢変化を受けても、安倍首相が従来の対米従属に固執し、すでに七割を我が国で負担している米軍の駐留経費をより多く負担すると言い出しかねないことである。こうなれば卑屈ここに極まれりであるが、安倍首相ならやりかねないところが怖い。よって我々は真正保守を結集して政府を督励し、目前の好機逸失を避けねばならない。

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