インド社会は、「市場の失敗」と「政府の失敗」のスパイラル

 インドで生活していると、この社会は、典型的な「市場の失敗」例だと思うことがよくある。大学時代に経済学の授業で、「市場の失敗」の一例として「レモン市場」の話を先生がしていたのを思い出した。ここでいう「レモン」とは、中古車市場におけるポンコツ車のことである。レモンは一見、オレンジのように甘くて美味しそうだが、実際食べてみると酸っぱく不味いことから、中身が外見のイメージを裏切るポンコツ車のことを指すようになったのだろう。

 さて、一般的な中古車市場では、売り手と買い手は「情報の非対称性」を抱えている。例えば、中古車の売り手はその車がレモンかどうか知っているが、買い手はそれがレモンかどうか分からない。すると、買い手は仮にそれがレモンである場合のリスクを換算したプレミアムを買い取り価格から差し引く、つまり安値で買い叩こうとするだろう。しかし実際にレモンでない中古車の売主は、その買い取り価格には応じないから市場から退場する。その結果、市場に残るのはレモンばかりとなり、当然買い手も市場から退場するから、全ての市場取引が成立しない、抜きがたい非効率が発生することになるのである。経済学ではこれを「逆選択」と言うらしい。

 筆者の感想では、インドの市場は大同小異みな上述のレモン市場である。何故ならば、メイド・イン・インディアの表記がある商品の大半は粗悪品であり、中古車市場と大差がないからである。たとえソニーのラップトップであっても、それがメイド・イン・インディアである限り、かならずどこかに異変がある。よってそこでは当然に上述のような市場の失敗が帰結されざるを得ない。

 一般に上述した市場の失敗を防ぐ方法としては、その原因である情報の非対称性を是正する法制度を、市場の外部にいる政府が構築しこれを保証せねばならない。たとえば、商品の買い手を保護するために、政府が一定の品質基準をメーカーに義務付けたり、違反者に罰則を科すなどである。無論、インドにもそうした法制度は一通り担保されているが、更に厄介なのは、その法制度が適正に執行されないことである。この国の最大の問題は、美辞麗句で装飾された膨大な法令が貪官汚吏の巣窟と化した行政機構によって歪曲され恣意的に処理されていることにある。たとえ、どんな立派な法律を作っても、それが適正に執行されねば何の意味もない。そこである法律を適正に執行しているか監視する法律を作ったとしても、今度はその法律が適正に執行されているか監視する法律を作らねばならない。もちろんその費用は国民の税収から賄われるから、その社会的負担は甚大となる。

 このように目下のインドを覆う暗澹たる現実は、まず「市場の失敗」が膨大な法律を執行する非効率的な官僚機構を現出し「政府の失敗」に陥りながらも、汚職に塗れた役人は法令を遵守しないため、「市場の失敗」が繰り返されるという負のスパイラルである。

 

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