山田正彦氏著『タネはどうなる?!』(2018、株式会社サイゾー)摘記

種子法廃止法案

衆議院ではわずか五時間、参議院では参考人質疑を併せて十二時間たらずの審議で成立

かつて我が国の種は伝統的な固定種で国産100%だったが、現在ではほとんどの野菜がF1種(雄性不稔種による一代雑種)になり海外生産が9割に

世界の種子市場はモンサント、ダウ・デュポン、シンジェンタなど多国籍企業6社で世界のシェアの66%を占めている。・・・モンサントは遺伝子組み換え種子の生産販売だけでなく野菜のF1のタネを含む非遺伝子組み換え分野の売り上げが全世界で年間8億100万ドル(914憶6000万円・2016年)。

日本政府はすでに遺伝子組み換えの農作物ジャガイモ、トウモロコシ、甜菜等、世界で最も多い309種類の品種の種子で商業用の栽培を認めている。・・・日本政府はTPP協定を批准してから矢継ぎ早に遺伝子組み換え作物を承認してきたが、米国でも認められているのは197種類しかない。

コメ麦大豆のような公的支援(主要農作物種子法)がなくなると、野菜の種子にみられるように次々と人工的なもの、F1の品種から遺伝子組み換えの種子、ゲノム編集によるものと、自然界にあったものとはほど遠いものを私たちは食べることになる。

種苗法21条の例外品目拡大

伝統的な固定種の種子は、有機栽培農家、自家菜園で細々と守られてきたが、それすらも種苗法21条3項

農林水産省令で定める栄養繁殖する植物に属する品種の種苗を用いる場合は適用しない

(栄養繁殖とは胚、種子を経由せずに、根茎、葉などの栄養機関から繁殖する無性生殖。タマネギやニンニク、ジャガイモやサトイモ、サツマイモなど)

で禁止されつつある。

もし交換している種子が政府が例外として、育成権者の登録された育種の種子であったら、懲役十年以下、一千万円以下の罰金に処せられることになる。

2017年3月、運用規則によって種苗法21条の例外品目、すなわち自家採種禁止の品目のリストが急拡大されている。これまでは82種類だけだったが、農水省は一挙に207品目を例外として認めて合計289種類に増えた。中には、キャベツ、ブロッコリー、ナス、トマト、スイカ、メロン、キュウリ、ダイコン、ニンジンなどのメジャーな野菜が含まれている。

UPOV条約

その根拠になっているのがUPOV条約である。

UPOV条約とは1972年に大企業が品種の知的所有権を主張し始めたことによって締結された条約で1978年と1991年に改定されて現在に至っている。種子の登録制度を設けて、新しく同質的で安定していて他の類似の種子と区別できるような種子を登録させて、その種子をフォーマルな種子として政府が認め、その種子を無断で自家採種することも流通させることも禁止することができる条約である。・・・日本は1991年にUPOV改正条約を締結している。

UPOV条約があるにしても、政府がこれほどまでに育成権者の登録を求める理由として、日本の良好な種子が海外に不正な形で流され、その地で栽培、増殖されて逆に日本に輸入されてくる事実がある。登録された種子であれば罰則などで日本の育種の知見を守る厳しい取り締まりができると考えているようだ。

しかし、「ひのみどり」やブドウの新品種シャインマスカットにしても中国に流出した当時も登録品種であった。それでも取り締まれなかったのに、自家採種だけを禁止しても何もならなのではないか。

日本はUPOV条約によって、種子の育成者の権利を守るとして種子法を廃止して、種苗法でひそかに保護する権利を急速に拡大して、農業競争力強化支援法(8条4項)で、これまでの蓄積した育種の知見を多国籍企業にも開放するとしてきたが、一方この条約と相反する「食料・農業植物遺伝資源条約」も批准している。そして、同条約は2013年10月28日に日本でも効力を生じている。そこでは19条種子の権利として「1項d)自家採種の種苗を保存、利用、交換、販売する権利」と明記されている。

日本ではすでに遺伝子組み換えコメが栽培されている。

世界の種子を支配しようとしている多国籍企業のモンサント、ダウ・デュポン、シンジェンタなどは日本のコメの種子だけで年間8万トンとされている国内の主要な農作物の種子市場を黙って見逃すはずはなかった。

モンサントは子会社である日本モンサントでとねのめぐみを茨城県に申請、同品種も奨励品種としての登録が認められるようになった。「2017年度だけで、なんと1万6000ヘクタールもの日本中の水田で栽培されていたのだ。」

三井化学アグロのみつひかりはすでに全国のコメの生産の1%をシェアするまでに至っている。

日本にも1999年いち早くモンサントがカリフォルニア米で除草剤耐性の遺伝子組み換えのコメの種子を開発して茨城県の河内町のモンサントの実験圃場でその「カルロース」の試験栽培を始めている。

米国政府の要請によって、2001年に日本政府は食糧政策上、今回の種子法廃止につながる歴史的に重要な決定をしている。なんとモンサントと愛知県農業総合試験場との共同研究を承認したのだ。・・・こうしてモンサントは「祭り晴」で除草剤耐性の種子の開発に成功し厚労省に栽培が許可されている。

日本政府はすでに70種の遺伝子組み換えコメの栽培を認めている。

グリホサートの基準値緩和

仏・独・伊ではラウンドアップ=グリホサートを3年以内に禁止する

厚生労働省は2017年12月25日、こっそりとマスコミの配布資料にも記載されないままにグリホサートの安全基準を最大400倍に緩和した。・・・米国ではグリホサートは大豆だけでなく小麦の収穫前に乾燥の手間がいらないとして散布して収穫している。

食品表示の問題

日本の遺伝子組み換え食品の表示は、・・・2001年に公布された内閣府令で義務付けられているに過ぎないことがわかった。現在、法律もなく内閣総理大臣が決めさえすれば、国会で審議されなくてもいつでも遺伝子組み換え食品の表示義務をなくすことができる状態にある。

消費者庁では2017年4月26日から遺伝子組み換え食品の表示についての審議がなされている。

これまでは5%以下の混入について遺伝子組み換えでない表示が任意で認められていた。ところがこれからは0%、不検出でないと、たとえばこの豆腐は「遺伝子組み換えでない大豆から作られた」という表示はできなくなることになる。

TPP11が2018年3月8日に署名されて、政府は6月までに批准手続きを終えて、早ければ2018年内には発行させるとしている。・・・食品の表示の問題についてはたいへん大事なことが、2016年2月に日本がニュージーランドで署名して、国会で批准したTPP協定の第8章TBT(貿易技術)7条に記載されていた。

〇透明性

各締約国は、利害関係者に対し自国が作成することを提案する措置について意見を提出する適当な機会を与え、その作成において当該意見を考慮すること等により、他の締約国の者が中央政府機関による強制規格、任意規格及び適合性評価手続の作成に参加することを認めること、(以下略)

強制規格では、日本は何を理由に表示義務を課さねばならないのか、適合性評価手続きが求められる。たとえば国の遺伝子組み換えコメの「祭り晴」とこれから主流になる除草剤耐性のコメ、ゴールデンライスについての食品表示を従来通りに義務づけようとすれば、その適合性評価を決定するときには利害関係者の意見を聴取して他の締約国も参加しなければいけないことになっている。

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