ポルハナスが1747年に死ぬと、彼の息子であるギュルメ・ナムゲが王子の称号を継いだ。ダライ・ラマ5世がチベットを統一してから百年、いまやチベットはダライ・ラマではなく清国の属国として一介の世俗の貴族によって支配されたのである。ギュルメ・ナムゲの清に対するスタンスは彼の父とは大分異なっていた。ポルハナスは清国に対して友情と忠誠を注意深く装うことによって巧みにチベットと清国の関係を繕い、その引き換えにチベット古来の慣習や価値観に従って自由に国内を統治する保証を得たが、その息子は対照的にチベットから清国の影響力をすべて排除しようとしていた。彼は時の皇帝、乾隆帝に清国軍がチベットに駐屯する必要などなく、皇帝の使節であるアンバンが自分の政治の邪魔をしてチベット人から搾取しているといって苦情を申し立てた。それまでの25年間、チベットは平穏無事な期間が続いたため、皇帝はラサの駐屯軍を百人まで減らし、ラサのアンバンにチベットの政治を妨害しないように指導を与えた。また皇帝は、アンバンと清国軍の駐屯費を賄う資金を送ることで財とサービスを供出させる使役の必要を減じた。しかしギュルメ・ナムゲは全ての清国軍とアンバンがチベットから出て行くことを望んでいた。そこで彼は自前のチベット軍を秘密裏に組織し、破滅的にも清朝の宿敵であるジュンガル・モンゴルと通謀した。
ラサのアンバンがこの謀略のことを聞き及ぶと、彼らはナムゲをラサの自邸に招待し彼を殺害した。するとその報復としてナムゲの家臣たちはアンバンの邸宅を襲撃し彼らと清国兵を殺害した。その他の数百人の清国兵はダライ・ラマ7世の庇護を求めてポタラに身を寄せたため助命された。清国皇帝の乾隆帝はラサへの進軍を命じた。
こうした政治空白を埋めるため、ダライ・ラマは政治に介入して暴動を鎮定し、シナ人や満州人の殺害を止めさせた。また世俗の貴族を任命して政府を運営させ、暴動の指導者を捕らえさせた。かくして清国軍がラサに入城するまでに、市内の秩序はダライ・ラマの権威もとで回復された。清国軍の司令官はギュルメ・ナムゲの支援者を大量に公開処刑し1723年や28年のように政治構造の改革を断行したが、今回はチベットの政治を永久に安定させるために正式な再建プランを策定した。その名も「より効果的なチベット統治のための13か条法令」。清国は世俗の貴族を通じてチベットをコントロールしようと試みたあと、今度はダライ・ラマの支配者としての地位を回復し、その一方でアンバンの役割をよりチベットの内政に直接に関与させる形で高めた。同時に清国は、貴族の権力との均衡を図るため僧侶のなかから抜擢された人物を官僚として要職に据えた。たとえば、僧侶の大臣が新たな閣僚の一人に加えられ、今回から僧院長とラサ近郊のゲルク派三大寺院(デプン、セラ、ガンデン)の管長(チソ)が重要な案件に関しては閣議に参加することになった。
ここ何十年かの間、チベットは平和であったが、国家は脆弱で統一を欠いていた。チベットとネパールの紛争が1788年にネパールの侵攻を引き起こしたとき、チベットは自国を防衛することが出来なかった。ネパール人はパンチェン・ラマの僧院であるタシルンポ寺院を壊滅し、南西チベットの大部分を占領した。1792年、清国皇帝は清国軍をチベットに派遣してチベット軍に合流させネパール軍をチベットから追い出し講和を結ばせた。これは18世紀のうちで清国のチベットに宛てた五度目の派兵であった。
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