下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす』メモ

プーチン アジア表紙ウクライナの「マイダン革命」は、アメリカのビクトリア・ヌーランド国務次官補が関与し、ネオナチ的な急進派が紛れ込んだ暴力革命であって、民主的な正当性はない。ヌーランドの夫はネオコンの重鎮とされるロバート・ケーガンである。アメリカの対ロシア強硬姿勢は、国内のウクライナ系移民によるロビー活動が影響している。

ロシアとウクライナは兄弟国である。歴史的に東ウクライナはロシア帝国の版図でロシアを話す正教徒が多く、西ウクライナはポーランド、ハプスブルグ帝国の影響下でカトリックが多く、ウクライナ語比率が高い。第二次大戦中は東ウクライナはソ連、西ウクライナはヒトラーの側に分かれて殺し合った。

戦後ウクライナはソ連治下の共和国になったが、1954年にウクライナ出身のフルシチョフがそれまでロシア領であったクリミアをウクライナに割譲した。ソ連崩壊後もクリミアはウクライナに引き継がれたが、クリミアはロシアにとっての戦略的要衝であり、黒海艦隊が駐留していた。そこでウクライナはロシアから供給する天然ガス代を減額する代わりに黒海艦隊のクリミア駐留を認めたのである。しかるにマイダン革命で復権したティモシェンコはこの合意を破棄した。ロシアのクリミア編入は、93%のクリミア住民が賛成した。

プーチンは極東・シベリアの経済開発や安全保障での東方重視政策を推進している。こうしたプーチン外交の東方シフトは、世界経済と政治の中心が大西洋からアジア太平洋へシフトしつつあ情勢変化への認識に基づく。特に、中国を中心としたアジアのエネルギー需要が高まる一方で、欧州市場はリーマン・ショックで縮小し、米国ではシェールガス革命が起きてエネルギーの対外依存が減った。

よってロシアとしては、極東・シベリア資源を開発してアジアへのエネルギー輸出を増やしたいが、安全保障の観点から中国への偏重は避けたい。2003年の「ユーコス事件」は、ユーコス社が中国と二国間で民間ハイプラインを引こうとしたことが原因とされる。中露間に存在していた国境画定問題は2004年に解決済みだが、1860年の北京条約でロシアが清朝から獲得した沿海州等、両国には潜在的な領土問題が存在しており、ロシアは中国からシベリアへの人口流入を警戒している。今回の対ロシア経済制裁は欧米の金融機関におけるガス取引のドル決済を不可能にする結果、香港ドルが代替決済手段となり、中国の金融力を高めドル離れを加速する可能性がある。

こうしたなかで、日ロ関係の重要性が高まっている。東日本大震災での原発事故以来、我が国のロシアに対するエネルギー依存が高まっている上に、ロシアではエネルギー以外での産業を育成するために我が国からの技術支援を期待している。また北極海航路の開拓のためには、北方領土問題の解決が必要であり、プーチンは同問題の解決に意欲を示している。両国の政権基盤が安定している今こそ、日ロ交渉打開の好機である。

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