黒龍会『会報』(「露国の実力を算して和戦の利害に及ぶ」)メモ

黒龍会による明治34年4月発行の「会報」のうち『露国の実力を算して和戦の利害に及ぶ』と題した論説を読んだ。執筆者は不明。政府当局の忌諱に触れ発禁となり、「会報」は以後「黒龍」に名を変え継続した。簡にして要をえた分析であり、現今の中国研究に役立つと思った。以下は見出しと内容の摘記要約。

○露国表面の実力と裏面の欠陥

 人口多民族的にして密度低し

○生産力と裏面の欠陥

 農業生産の後進非効率と、商工業の外資専横

 「然ればすなわちその国は兵馬においては天下に雄たりと称するも事業経営においては露は半亡国の形勢に接近するものに非ずや」

○宗教政略と裏面の欠陥

 ギリシャ教信奉と宗教利用による皇帝崇拝、政教軍の癒着と腐   

 敗、科学的知識の未発達

○社会成立と裏面の欠陥

 貧富貴賤の格差顕在と革命の不穏的兆候、風俗道徳の頽廃

○教育制度と裏面の欠陥

 愚民化政策、反体制的自由思想を警戒

 「その国を閉鎖して知識的自由交通を欲せざる」

○財政制度と裏面の欠陥

 帝室の富裕、不透明な国家財政、シベリア鉄道建設に巨費投 

 入、非生産的なる侵略政策

○政治制度と裏面の欠陥

 君主専制の迅速なる意思決定、閥族の官職独占と贈収賄の横 

 行、開拓事業を障害

○鉄道経営と裏面の欠陥

 シベリア鉄道経営の不採算、営業上の障害、工事の遅滞

 ただし、「天下の商事と兵事は・・・一大変動を惹起し・・・一世の  

    恐惶を来す」→欧州海軍の無力化

  愚邁なる自国民の雇用・知識の伝播、が転じて社会騒擾を誘  

 致

○東方経営と裏面の欠陥

 都府的政略による開拓の失敗と移民の撤退→シナ・朝鮮から 

 の移民を容認、本邦シベリア進出の好機

○露国の運命を占う

 まとめ:生産振わず、統一宗教に宿患あり、社会の要素腐食 

 し、教育制度不完全、財政強固ならず、政治頽廃し、鉄道経営  

 は不結果、東方経営は施設を誤る

 →「老大朽国また何をかなさん」

 露は我邦の三種神器(智仁勇)に相当する立国上の大精神な  

 し

 他国人を要路に客として招聘するの弊

 欧州の躊躇する露の精神的開導(智仁勇)こそ我が国の使命

○彼我陸海軍の実力比較と和戦の利害

 シベリア鉄道による兵事輸送能力の限界

 東方における我が陸上兵力の優越

 但し騎兵(馬匹)及び輜重の運送に遜色

 我が艦隊は列強よりも精鋭にして数多し
露国は我が海軍力を標準として軍備を施設
開戦準備は充分、むしろ時機遷延は東清・シベリア鉄道、旅順  

 港・極東艦隊完成を許し我が方に不利
○戦勝に対する処分
満鉄の兵数削減、各国人の権利平等、サハリン還付その他
○平和に対する施設
日露同盟による宥和外交の対案検討

カテゴリー: アジア主義 パーマリンク