○「神聖同盟」は「王政復古」と軌を一にしている。
戦略的な同盟関係を磐石ならしめるためには、その同盟の当事国の間に政治体制や価値規範といった文化的基盤が共有されていなければならない。奇しくもキシンジャーが認めたように、近代以降の国際政治で最も戦争の惨禍が少なかった時代は、「正統性原理」と「勢力均衡」をメッテルニヒの卓抜な指導力の下に両立したウィーン体制期であったことは特筆に値するだろう。いうまでもなく、戦後の日米安保体制を支えた文化的基盤は「民主主義」という共通の価値観と政治体制であった。そこで今後我が国が、先述した諸国家と新たな同盟関係を樹立するということは、まず以って我々自身が父祖の「国体」を復興し、民族古来の価値観に回帰することと相即するものでなければならない。
○人間は国家的存在であることによってのみ道徳的自由と経済的平等を享受しうる。
我々は天賦人権説がもたらした誤解を払拭せねばならない。つまり、人間は生来自由でも平等でもないのだ。実際、世界の資源は、全ての人間が自由と平等を享受するには余りにも稀少である。そこから国家の暴力によって武装した民族間の対立が生まれ、勝ち残った者が道徳的な卓越とその栄光に相応しい財産を獲得してきたのだ。したがって、我々が今日当然のように享受している文化的・社会的権利は、エドモンド・バークが説くように、国民の祖先から子孫に受け渡される「世襲財産」である。我々は国民として国家に忠誠を誓い、この道義的目的のために命を賭けることによってのみ、真個の道徳的自由を発揮することが出来る。そして国民がその優れた武勇を通して手に入れた戦利品が、彼らの子孫が優れた教育と訓練を通じて偉大な人間になるための物質的基礎となるのだ。国家から自由になること、それは決して人間に真実の自由をもたらさぬばかりか、却って彼を欲望の奴隷にして新しい鉄鎖に繋ぐだけである。したがって我々は国民から信仰を剥奪し彼を物質主義の支配下に置く「国家中立性」のテーゼを粉砕し、尊王の大義を奮い起こして「王道復古」の反革命を断行せねばならない。
○「高度国防国家」の建設
最後に、中露に伍しうる強大な国家は、それを支える文化・経済的基盤に立脚せねばならない。しかし以上に見てきたように、今日の国民経済が直面するのは、実体経済の慢性的な生産過剰と需要不足、そして金融経済が引き起こす文化矛盾とニヒリズムの進行である。この難局を突破するには、政府が金融を統制して大規模な軍備拡張を柱とした産業政策に着手し、総需要を押し上げることによって、国家道徳と国民経済の背反命題を両立する必要があるだろう。