『高度国防国家戦略』⑪

○「脱成長社会」を現実的日程とするために、我々は最終闘争を勝ち抜かねばならない。

 最早資本主義の成長エネルギーは枯渇し、意図的に金融バブルという名の「時限爆弾」を抱えなければ延命できないどん詰まり状況が、我々の前途に立ちはだかっている。したがって、我々は佐伯啓思氏が教示するように、これまでの「豊かさ」に対する価値観を根本的に見直し、近代資本主義文明に於ける「競争主義」や「金銭主義」「技術主義」の影で排除されてきた「文化・社会的基盤」を「公共計画」によって回復することで、「脱成長社会」への『大転換』を遂げねばならぬことは論を俟たないであろう。しかしこうした新しい社会像も、冷厳なる国家の地政学的基盤の上に於いて初めて現実的課題となるのであって、目下の混沌とした東亜の政局が新たな権力的再編の上に安定を取り戻さぬ限りは到底不可能である。よって我々は、現行の国家体制を政治・経済・文化の各面から抜本的に改造し、その対外政策を刷新して、所期の目的達成に遺漏なきよう努めねばならない。

○日米安保体制からの脱却と「外交革命」の断行。
まず、大艦隊建造によって外洋進出を目指す中国の戦略的意図は、詰まるところ、インド洋と西太平洋に於ける海洋覇権を掌握し、自国の経済発展の生命線であるシーレーンをアメリカの手から奪取することにある。そのため彼ら(中共)はインド洋に於けるインドのプレゼンスを駆逐するため、その敵国であるパキスタンに軍事・経済的援助を与えているのである。こうした動きに対抗すべく、インドはイランとの経済関係を強化しこれをエネルギー調達の観点からも重視している。ところが過熱化する印中の確執を尻目に、アメリカが該等地域からそのプレゼンスを漸次削減しているのは何とも嘆かわしいことである。アメリカは最早世界覇権国として「封じ込め」を継続するポテンシャルがないのにも拘らず、リベラルが抱く「関与」策への幻想故にオフショアバランサーの役割を放棄している。殊に政権を奪回した民主党は、往年の「ビンの蓋」論を固守して日本の再軍備を警戒し、その一方で中国の台頭を野放しにしているのである。
よって今や日本は、日米安保の頚木を脱して自主的な抑止力を保有し、東亜の政局に対して実質的な責任を分担しなければならない。日米安保は「民主主義の同盟」であり、「分断統治(devide and rule)」を狙ったアメリカの極東政策を構成する一本の「スポーク」に過ぎなかったため、我が国は、中国に対する脅威を他の「権威主義国家」と共有しておりながら、これらの国々との間に独自のマルチラテラルな軍事同盟を締結することができなかった。東亜全局の安定を維持するため、我が国はインド・ベトナム・イランを始めとする諸国家との同盟関係に外交政策の軸足を移すべきである。これはまさに「外交革命」の名に相応しい大転換だ。

カテゴリー: 高度国防国家戦略 パーマリンク