清国皇帝は行政的にチベットをシナに編入するつもりはなかった。彼の目的は世話の焼けるチベットの指導者たちの行動をコントロールし、なかでもラマたちがその宗教的な権威をモンゴルの上に行使して清国の国益を害するのを阻止することであった。過去には、清国が称号と贈物によってダライ・ラマのようなチベットの高僧たちから友好と忠誠を獲得しようと試みたこともあったが、そうした試みは無駄であることがはっきりした。そこで今度はチベットを清国の緩慢な保護国にすることによって、清の国益を守ることに決めたのである。そこでは強大な清国がチベットを外圧と内紛から守り、内政に関しては清国の国益に反しない範囲で彼らが承認した指導者に任せるというやり方であった。こうしたチベットに対する消極的覇権の構造は、18世紀の残りの期間を通じて続き、清国はその後三回にわたって軍隊をチベットに派遣した。
清国はチベットで数々の重要な行政改革を実施した。彼らは16歳のリタンの少年をダライ・ラマ七世としてポタラ宮殿に迎え入れ、かつてジュンガルに味方した主な官僚を処刑したが、そのなかにはジュンガルが任命した摂政も含まれていた。また清国はラサに駐屯軍を置き、数千人の軍人を送り込むことによってチベットの支配を盤石なものにした。さらに摂政の官職(1642年にモンゴルのコシュート族によって創始された)を廃止し、1721年にはそれに代えるに四人の大臣(カロン)からなる集団指導体制を敷設、そのなかの一人であるカングチェナスが首席大臣に任命された。四人の大臣は全員、ロブサン・ハーンを支持しジュンガルの侵略に反対した在家の有力官僚であった。
当時ラサに滞在していたイエズス会宣教師のデシデリ一世は、この出来事を予言的に次のように書き残している。「ほとんど二十年にもわたる混乱と破壊の後で、チベットは1720年10月、シナの皇帝によって併合され、おそらくシナ皇帝の子孫たちによるチベット支配は今後何世紀も続くであろう」。このように、ゲルク派とカルギュ派の宗派対立は、チベットをまずモンゴルのコシュート族からジュンガル族へ、そして最後には清朝の支配下へと陥らせたのである。清朝によるチベット支配は、辛亥革命の1911年まで続くことになる。
1720年の清国による行政改革は成功しなかった。一人の強力な摂政に代えて何人かの大臣を置く戦略は、権力分立よりも権力分裂を招いたためである。その結果、1727年には内戦が勃発し、三人の大臣が首席大臣のカングチェナスを暗殺し、また彼を支持した大臣のポルハナスの殺害を企てた。しかしポルハナスはこの謀殺計画を免れ、彼の地元である南西及び西チベットで軍隊を組織してラサに攻め上り、他の大臣に勝利、1728年7月にはラサを制圧した。
ラサの秩序を回復するための清軍は当時展開していなかった。というのも、チベットの大臣が、封建的な自給自足経済の中で数千人もの駐屯軍に食料を供出するのは困難であると不平を申し立てて以来、清国皇帝は駐屯軍を引き上げてしまっていたからである。したがって、チベットにおけるクーデター未遂の教訓を得た皇帝は、新たに軍隊をラサに派遣(18世紀で三度目)せねばならなかった。この派遣軍はポルハナスがラサを攻略してから二か月後に到着した。
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