その2.ことほどさようであったから、日米地位協定の前身である日米行政協定は前述したダレスの要求通り、①日本の全土基地化②在日米軍基地の自由使用を可能とするわが国とって極めて従属的な内容となった。
そこでまず①に関連する条項を見ると、
日米行政協定第二条1項
「日本国は合衆国に対し、安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に必要な基地の使用を許すことに同意する。」
とある。これは
日米地位協定第二条1項(a)
「合衆国は日米安保条約第六条の規定にもとづき、日本国内の基地の使用を許される。」
との記述に受け継がれている。本書の説明を引用すれば、「つまり他の安全保障条約のように、どこどこの場所をどれだけの期間、米軍基地として使うという取り決めではなく、「米軍」が「目的を達成するために必要」(行政協定)とする基地の使用を、日本政府は許可するということ」である。
また地位協定は基地使用の取り決めについて
第二条2項
「日本国政府および合衆国政府は、いずれか一方の要請があるときは、前期の取り決めを再検討しなければならず、また前記の基地を日本に返還すべきことまたは新たに基地を提供することを合意することができる。」
第二条3項
「合衆国軍隊が使用する基地は、この協定の目的のため必要でなくなったときは、いつでも日本国に返還しなければならない。合衆国は基地の必要性を前記の返還を目的としてたえず検討することに同意する」
とあり、合衆国が基地の返還に同意しないかぎり、これを永続的に使用することができる規定になっている。
ただし米軍への新たな基地の提供に関しては
地位協定第二条1項(a)の後段に
「個々の基地に関する協定は第二五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結せねばならない」
とあり、理論的には具体的運用のなかでわが国政府が米国に基地の提供を拒否することも可能であるが、外務省の地位協定運用マニュアルであり琉球新報が2004年に暴露した機密文書、その名も『日米地位協定の考え方』では、上記の第二条1項(a)について、「この条文は①米軍は日本国内のどこでも基地を提供するよう求める権利があること、②日本側はそうした要求に全て応じる義務はないが、合理的な理由がなければ拒否できない、としています。さらに安保条約は、そうした基地がいるかいらないかといった判断については、「日米間に基本的な意見の一致があることを前提に成り立っている」として、事実上、日本側が拒否することはありえないと明言しています」(本書引用)。
いかなる国際関係においても外国基地の使用に関して外国軍とその接受国の間に「基本的な意見の一致」などありえない。だからこそ、通常はその軍の行動を平等な条約によって規制せねばならないのであるが、わが国の場合、それは条文と運用の何れにおいても担保されていない。