対米従属の構造分析①有馬哲夫『原発・正力・CIA』(08年、新潮新書)を読む2/2

 さてはともかく、上記のような経緯で両者の思惑は合致し、CIAからコードネーム「ポダム」と命名された正力はアメリカと通謀して我が国の政財界に工作を行った。その際、正力は自らが率いる読売新聞5000人の記者が集めた情報をCIAに提供するとともに、アメリカにとって有利な原発世論の喚起に努めたのである。

 
しかし時ならずして我が国の原発導入を巡る両者の同床異夢が露呈する。というのも、アメリカは我が国の原理力開発を飽く迄平和利用に限定していたため当面は研究炉の提供を想定していたのに対して、正力は将来の軍事転用による原爆製造が可能な動力炉の導入をアメリカに強く求めたのである。さらにアメリカは、前述した正力のマイクロ波通信構想も、「これが完成すれば、必然的にすべての自由アジア諸国に影響を与えることのできる途方もないプロパガンダ機関を日本人の手に渡すということになってしまう」と警戒し始めていた。そしてついに思惑に齟齬を来した両者は決裂し、正力は初代原子力委員会の委員長、科学技術庁の長官としてイギリスから動力炉を輸入することに決する。
 
本書が仮定するように、正力の目的がマイクロ波構想の実現にあるとすれば、なぜ彼がアメリカと対立してまで動力炉の導入に拘ったのか説明がつかない。また本書が説くように、正力は動力炉をイギリスから導入することに慎重であった河野一郎と対立したことで政界で孤立し、総理の道を絶たれている。しかしそもそも正力が政界に進出した動機が、マイクロ波通信構想実現のための許認可権獲得にあったとするならば、こうした進退も説明不能である。
 
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