『高度国防国家戦略』②

○80年代アメリカの先祖返り的現象
ところが80年代になると状況は逆転する。その要因となったのが、レーガンの登場に象徴されるアメリカの「保守革命」である。レーガンは、市場の自己調整メカニズムを信奉する「マネタリスト」の政策処方に従って徹底的な経済自由化政策を断行した。それは第一に、金融市場の自由化によって、アメリカ経済を「産業主導型成長」モデルから「金融主導型成長」モデルに転換し、新たな比較優位部門の創出をもたらした。第二に、競争的市場は、「自己責任」を重んじるアングロ・プロテスタントの伝統的価値観と符合したことから、その普遍化を目指す「保守革命」の展開は、アメリカ保守層による文化的巻き返しの過程と軌を一にするものであった。こうした道義的威信と経済競争力の回復によって、アメリカは世界的コミットメントとを再開し、レーガンは共産主義陣営との対決姿勢を鮮明にしたのであった。結果、アフガン侵攻の失敗と経済開発の停滞で遅れを取るソ連が自滅するような形で、戦後の東西冷戦はアメリカ勝利の下に終息したのである。

○アメリカは復活するか。それは日本にとって何を意味しているのか。
そこで、我々にとってさしあたっての問題関心は、アメリカの今後である。つまり、「強いアメリカ」は復活するか。それが叶わねば、上述したように日本は大国化する中露の脅威を防げない。よって日本は「強いアメリカ」を必要とするか。あるいはアメリカの今後が、日本の意思と能力にかかっているのならば、我々は黄昏行くアメリカに同盟国の一灯を照射すべきか。次に述べるように、「弱いアメリカ」は問題であるが、しかし「強いアメリカ」も厄介である。というのは、アメリカは強くなると、同盟国に自らの価値観と制度を押し付けて、国民の社会的・文化的基盤を破壊するのである。これを説明するために、大東亜・太平洋戦争前後の日米関係を以下に概観する。

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