孫崎享『不愉快な現実』(講談社現代新書2012)覚書
精読はしていないが本書の梗概は以下の通り
・米国の世論調査によれば日本と違い、欧米はじめ諸外国は中国が米国を追い抜くと予測している。事実、日米中のGDPを購買力平価で計算すると、現在の比率は43:147:101であり、この調子だと2020年ごろには、中国経済が米国を凌駕する。
・日米中の貿易関係をみると、米国の対中輸出は対日輸出を上回っており、対して中国の輸出相手国で見ても我が国(10)は、上からEU(27)、米国(23)、ASEAN(11)の後塵を拝している。これは、米中両国がお互いに、日本との関係よりも経済的には重要な関係になっていることを意味する。
・現在の米中には「相互確証破壊」による核の均衡が成立している。確かに昨今の中国は海軍力はじめ国防力の増強・近代化を推し進めているが、その動機は巷間の中国脅威論が鼓吹するような大中華帝国の再興ではない。北京の主要目的は「主権、治安、開発」であり、その手段でもある輸出を視ても、中国の対GDP輸出額比率は、26.6%と他国を圧倒している。よって、米国国防省の議会報告(「中国の軍事力」)の指摘通り、中国は冒険的紛争を避け、自由な輸出市場と資源へのアクセスを維持することに利益を見出している。
・対して米国の東アジア戦略のシナリオは四つあり、第一に伝統的な日米関係重視、第二に米中両大国によるG2構想、第三にオフショア・バランシング、第四に関係国による協調的な国際枠組みの構築である。
・その際、軍産複合体と結託した「ジャパン・ハンドラー」や戦後いわゆる「吉田ドクトリン」の遵奉者が説くような「緊密な日米関係が日本の発展に不可欠である」という主張は間違いである。冷戦末期以降、米国は我が国を主要な安全保障上の脅威と見なし、近隣窮乏的な政策を取り始めた。なかでもBIS規制は、我が国金融機関の国際競争力を低下させ、国内的には貸し剥がしによる信用収縮をもたらした。
・以上の情勢分析、現状認識より、我が国の米国による「核の傘」は中国に対しては抑止力として機能せず、日中の軍事紛争に際しても米軍は出動しない。一方で、2020年頃における日中の国防支出比率が1:12に開くと予測されるなかで、我が国が軍事的に中国に対抗することはありえない。
・したがって、我が国は同盟関係の軸足をアメリカから東アジアにシフトし、現在のEUに発展した独仏のEECやASEANの試みを範にした平和的な紛争解決の道を模索せねばならない。しかしいわゆる「東アジア共同体」は心情的には理解できるが、EECやASEANが共産主義の封じ込めを図るアメリカの戦略と合致したのと違って、東アジアへの関与を続けたい米国の警戒を招いている。そこで現時点では、日中の間に、「複合的な相互依存関係」を拡大深化させることで、軍事的攻撃の抑止を図るべきである。
以上