朝鮮問題研究の趣旨と論点

  以前予告した通り、以後以下の要領で朝鮮研究に当たる。

 

朝鮮問題研究趣意 
○はじめに
北朝鮮が金正日独裁のもとでわが同胞の日本人を拉致し、核開発を続けてわが国の主権を脅かしているなか、わが国世論ではいわゆる日米同盟を強化して北の脅威に対処し、またその延長として日韓同盟すら検討する向きもある。しかし日米同盟は、自由と民主主義の同盟であり、在日米軍がその由来からして、わが国の祭政一致、君民一如の国体を封じ込める権力装置となっていることを考えれば、日米同盟や韓米同盟は所詮、アメリカをハブとする帝国システムの一端を担う一対のスポークでしかない。
韓国は主権国家とはいいながら、国民を統合する理念に乏しく、その結果宿弊ともいえる事大主義よろしくアメリカの庇護に安住している。百年前の日韓併合時に我々は、朝鮮の事大主義をわらったが、いまやわが国もアメリカの属領と化し、同じ穴のムジナに堕してしまった。
いまのところ、政府も国民も手詰まり状況に陥ってしまったが、こうした時だからこそ、実証的な情勢分析に飽き足らず、より根源的な思想的考察が必要ではないか。以下に論点を提示する。
 
①    中国の出方はどうか。中朝関係を中心に
歴史的に日清・日露の両戦役は、朝鮮をめぐる戦争であったといっても過言ではない。すなわち朝鮮への宗主権を主張する清露と、同国の独立を支持する日本の利害対立が事の発端であるが、その際わが国のなかで、清露は版図拡大のために朝鮮に対する領土的野心を有するという前提認識があったことは間違いない。
しかしソ連なきいま、北朝鮮にとって最大の理解者とされる中国も欧米主流の自由主義経済に組み込まれ政治的衝突を差し控えているように見えるし、したがって鴨緑江以南に勢力を拡大することによって、アメリカを怒らせるような冒険はしないように思えるし、そもそも朝鮮に軍事進出することが、現在の中共にとってどこまで地政学的メリットがあるのかすら定かではない。
しかしそうはいっても、北朝鮮は国際的に孤立化するにしたがい、中国への政治的経済的依存は強まり、その結果北京の平壌に対する影響力も日毎に拡大しつつあるのも一方の事実である。中国は13億の人民を養うために国家の軍事力を後ろ盾にした資源外交を展開しており、そうした積極進出政策は、従来の共産主義イデオロギーが歪に変容した中華思想によって正当化されている。中国の対外戦略を含めてこの辺の消息を明らかにする必要がある。
 
②    米国の出方はどうか。米国の極東戦略の趨勢
盧武鉉の自主国防路線は、北朝鮮による軍事挑発をまえに頓挫した。朝鮮有事の指揮統制権は来年返還される予定ではあるが、在韓米軍撤退の見通しは立っていない。しかし世界的な軍事再編の過程で、米軍のプレゼンスは後退傾向にあり、近年顕著となった中共軍の強大化に対しても、米軍が有効な抑止力を行使しているようには見えない。よって日韓両国による防衛上の自主努力が期待されている。米国は理念国家であり、リベラルな道徳論と地政学を混同する悪癖があるが、それは彼らが軍事的優位を占めたとき顕著になる。反対に国運衰退期には、ベトナム戦後のように国の内外に対して文化相対主義に傾倒する。よって、日韓の国体封じ込めと両国の分割統治を基調とするアメリカの極東戦略が緩和され、日韓の国体回復ならびに両国のバイ・ラテラルな同盟構築の機運が到来する可能性もある。 
③    日鮮の護るべき国体とはなんぞや
国家は価値の体系であるから、一国の安保は文化防衛として考えねばならない。その点で、北朝鮮は経済的には破綻しているが、朝鮮固有の檀君を祖先神に仰ぎ、民族の自主強盛を国家の目標にしている。一方の韓国も、キリスト教信仰がかなり普及してはいるものの、依然として儒教文化は健在であり、宗族中心の祖先崇拝が根をおろしている。
歴史的にも我が国は、漢字と儒仏を朝鮮から輸入し、滅亡した百済王族の血統を皇統に包摂している。また檀君の降臨神話と我が国の天孫降臨神話はかなり酷似している。こうした日韓の文化比較、交流史なども、双方の国体の独自性と親和性の両方を基礎づける意味で重要である。朝野を挙げた日韓合邦運動の変遷や明治帝のご聖旨についても理解を深めねばならない。
いずれにしても、米中の鼓吹する普遍主義はいずれも内容的価値の抜け落ちた近代イデオロギーであり、国家民族の文化的信念を破壊するものである。だからこそ、あらかじめ自分たちの精神基軸を闡明しておく必要があるのである。
 
④    日韓の経済統合について
経済統合、なかんずくその発展形である通貨統合の是非について検討する必要がある。通貨統合のメリットは主に二つ、一つ両国通貨の為替変動リスクを解消することで域内的に貿易促進効果がみこまれること、そして二つ目に域外的な貿易規模が拡大することで通貨の国際的な信認が向上することである。共通通貨がやがて地域の決済通貨になれば、現在アメリカが有するような基軸通貨特権が与えられ、それは軍事費拡大による国防力強化につながりうる。
さらに日韓の社会経済システムについて考察する必要がある。韓国は「漢江の奇跡」以来、国家主導の産業政策によって急成長を遂げたが、97年の通貨危機でIMFの「構造改革」を受け入れた。それが国家社会(いわゆる社稷)に及ぼした悪影響も看過できないが、一方のわが国ではいまだ金融市場をはじめとする要素市場の自由化論が残存している。
しかし中共勢力の南進を掣肘するには、高度国防体制を敷く必要があり、そのためには国家の軍事計画に則った経済統制の確立が待たれるのではないか。この点について検討する。
 
⑤    平成の日韓合邦と白村江
結論すると、我が国の国体を守るためには、アメリカから軍事的に独立して中共勢力の南進を阻止せねばならない。そのために、まずは日韓が米国の干渉を排したバイ・ラテラルな同盟を構築し、アメリカの局外中立を確保して北朝鮮を武力統一せねばならないが、それは事実上中共との戦いである。この平成の白村江ともいえる戦いに勝利してこそ、大和民族と朝鮮民族は、それぞれの文化的自主性を保持することができる。
そこでさしあたり、軍事学的見地から中共・北朝鮮の実力を計算して日中和戦の利害を検討せねばならない。

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