第三次アーミテージ報告(全訳資料):『米日同盟―アジア安定の鎮台』(2012.8)⑤

経済学と貿易

201111月、野田首相は環太平洋パートナーシップ(TPP)への参加に向けた事前協議に入ることを発表した。このTTPが完全に実現すれば、それは世界貿易の40%を占め、大西洋と太平洋にまたがる11の国家を内包するものとなる。さらに、他の地域的なFTAと異なり、TTPは包括的にして高度の法的強制力を伴う自由貿易協定として傑出したものになる。去年の発表以来、日本はTTPの参加に向けた進捗が鈍化してしまった。交渉に際する懸案の深刻さとアクターの数の多さは、より一層時間と微細にわたる注意を必要とする。しかし交渉入りの遅滞を止めることが、日本の経済安全保障にとっての利益だ。さらに、日本にとって最も重要な同盟国がアメリカだということと、そのアメリカと日本がFTAを締結していないことは、論理が矛盾している。よって我々は日本が交渉入りすることを切に勧告するのである。米国の側では、交渉の過程と合意案の草稿を透明化すべく、より一層脚光を当てるべきだ。

 

米日経済関係の活性化と保障

TTPに向けた協議に加えて、我々は大胆でイノベーティブな多国間自由貿易協定を日本に提案する。日本はメキシコとFTAを結び、カナダとのFTAを模索している。両国は米国にとって最も重要な貿易相手国であり世界で最大のFTAである北米自由貿易協定(NAFTA)の参加国でもある。包括的経済・エネルギー・防衛協定(CEESA)に米国と日本、カナダとメキシコが参加すれば、米日の経済、防衛、戦略的エネルギー関係は非常に拡大深化するだろう。日本はエネルギーの安全に対して死活的な必要に迫られており投資すべき資金に長じている。日本は海外直接投資でもたらされる金利収入を増やすことで、国内の経済的、人口学的な問題を埋め合わせる必要がある。対して、米国と北米諸国は、天然ガス開発の機会に満ち溢れているが、インフラ整備への投資に充てる資金が欠如している。

 CEESAは三つの中核要素からなる。

1.日本はNAFTAとの連携に向けたFTAをカナダと米国との間で交渉する(現存するメキシコとのFTAと並行して)NAFTA参加国とFTAを結べ証として、日本は北米のエネルギーへの制約なきアクセスを許可され、北米のインフラ及び戦略的なエネルギーに対する投資機会を活用する上で有利な地位に立つ。

2.米国は米日同盟の一環として、日本に輸出されるLNGやその他の「戦略エネルギー」の安全供給を保証する。

3.日本は天然ガスや石油、石炭、風力、太陽、原子力のエネルギー開発を推進するため、北米に次の十年間、千億から二千億ドルの投資を行うことを誓約する。

 我々は、CEESAが現行の貿易政策の進展から乖離するのではなく、むしろそれと軌を一にするものだと信じる。日本はすでにメキシコとFTAを締結しており、カナダとFTAを協議する意思を表明している。次のステップは、日本の最も重要な同盟国であり貿易と投資の最大の相手国である米国との交渉に入ることだ。カナダ、メキシコ、そして米国とのFTAは他に考えられうる如何なる手段よりも、日本の経済、エネルギー、金融面での安全保障に資するだろう。三国でのFTAは日本へのエネルギー供給を保障するだけでなく、日本にアメリカ、カナダ、メキシコの農業品への自由なアクセスを供し、食料の安定供給を確証するだろう。日本の農業人口は急速に減少し、国民の高齢化が進行し農家の平均年齢は66歳を超えている。こうした状況下で、日本が農産品に関する貿易政策を調整するのを先延ばしする余裕はない。依然FTAに立ちはだかる農業面の障害は全ての当事国が持続不可能な保護主義的貿易戦略ではなく、むしろ本当に経済的かつ食料保障上の観点に立って考えるのであれば簡単に乗り越えられるものだ。大韓民国が米国と成功裏にFTAを協議できるのであれば、日本もできるはずだ。

 CEESAに署名することによって、日本は先進工業諸国において最も成長が顕著な地域に根本から統合され、TPPに具現化された先進国と新興国の間を架橋する手助けをなすとともに、世界で最大の自由貿易圏を生み出すことによって世界経済の成長に拍車をかけることになるだろう。

 

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